友人の田中さんから2インチ双眼装置を使用した望遠鏡の製作レポートを寄稿いただきました。2台製作したスカイクルーザー(LVB-2)の1台です。2インチ双眼装置を30cmクラスの反射望遠鏡に実際にどのように組み込むか、また30cmクラスでの使用感想などとても参考になります。今後も改良を加えて行きたいと思います。
33cmトップリングスライド式反射望遠鏡(2インチ双眼装置対応)の製作

                                  田中正一

33cm反射望遠鏡全景
1.望遠鏡の概要
 1997年に製作したドブソニアン式の反射望遠鏡です。口径は333mm、焦点距離は1500mmでF4.5です。主鏡と斜鏡はCoulter社から個人輸入しました。製作して7年が過ぎ、操作性に不満がでてきたため、2004年に改造しました。
 トップリング、主鏡ボックス、フォーク部はシナベニア合板です。耳軸部の半円板は切り出すのが大変なので、真円度が高い組立家具の半円パーツをそのまま使い、円弧部にステンレス薄板を貼っています。組立家具のパーツはかなり精密に機械加工されているため、いろいろと応用がききます。垂直軸と水平軸はいずれもステンレス板をテフロンで支持しており、適度な摩擦を得ています。
 フォーク部の手前側にはL字型の曲げ板でできている黒色のアイピースホルダを取り付けています。ちょっとアイピースを置く時に便利です。そのままL字型の短い方をネジ止めで取りつけると、大きく出っ張り、持ち運ぶ時に邪魔なため、使わないときには蝶番で折りたたんで、マグネットで固定するようにしています。
2.トップリングスライド方式
 この望遠鏡の特長はトップリングと主鏡ボックスの間隔が可変式となっており、光軸精度を確保したまま単眼から2インチ双眼装置使用時まで筒外焦点距離を自由に選ぶことができることです。最近は双眼装置や複雑なレンズ構成のアイピースなど、望遠鏡に取りつけた時に焦点位置が出にくいアクセサリーが増
えています。「あとちょっとでピントが出るのに」とくやしい思いをすることも多いです。このようなことが無いように、トップリングが180mmスライドするようにしてあります。
        単眼時
(トップリングは主鏡から離れる)
   2インチ双眼装置使用時
(トップリングは主鏡に近づく)
 最初から2インチ双眼装置に合わせてトップリングの位置を固定すると、長すぎる筒外焦点距離を単眼の時に持て余す事になりますし、斜鏡が不足することによる周辺減光も大きくなります。トップリングを可変すれば、アクセサリーに合わせて筒外焦点距離を最適化できますため、つねに周辺減光を最小にできます。また、アイピースのみで接眼部が軽くなる単眼の時にはトップリングが耳軸から離れ、2インチ双眼装置のように重くなる時には耳軸に近づくため、垂直軸回りのバランスの崩れを打ち消す事ができす。ドブソニアンのようなフリーストップ架台はバランスが命であり、重さの異なるアイピースやアクセサリを交互に付ける時のバランスの崩れは使いにくいものですが、トップリング可変式ならば、重さが異なるアクセサリを使っても、ウエイトによる調整は不要です。
改造前 改造後
 改造前は四角い鏡筒の四隅にステンレスパイプを通し、それぞれ市販のパイプ通し金具で保持していました。位置決めは3本のパイプに直径3mmの穴を開け、ピンを差し込み、パイプ通し金具を突き当てることにより行います。位置の再現性は十分で、ステンレスパイプとパイプ通し金具は工作が容易なのがメリットなのですが、トップリングをスライドさせる時には、ピンを抜き、アクセサリに合わせた所定の穴に差し込む必要があり、暗い中でやるのは面倒です。また、パイプ通し金具の穴とパイプとのガタが必要以上に大きく、動かしている途中でトップリングが傾いてかじってしまうことがありました。従って、トップリングの位置を可変できると言っても、単眼と双眼装置を頻繁に切り換えるには無理がありました。
 改造後はステンレスパイプの代わりにリニアガイドを対角に2本入れていますため、滑らかに可変できるようになり、観望対象に合わせて、ワンタッチで切り換えることができるようになりました。
トップリング外側
トップリング内側
 リニアガイドはスライドする方向に直交する荷重やモーメント荷重を全て受けることができるため、十分な剛性と精度でリニアガイドを保持すれば、このスライド部を大きなドロチューブにすることもできます。送りネジなどによる微動を取り付ければ、筒外焦点距離最小の焦点調整機構になります。但し、この望遠鏡の場合は、リニアガイド自体には十分な剛性があるのですが、土台となるフレームやトップリングが木製のため、ドロチューブにできるほどの剛性はありません。軽合金でトップリングのフレームを作り、軽量化すればドロチューブになりますが、すでにあるトップリングを作りなおす根性は無いため、改造でできる範囲にとどめました。
 トップリングの内側には一定の間隔で穴が開いている金属板を取りつけてあり、プランジャがこの穴にはまることにより、クリックストップで位置決めできます。プランジャとは先端に鋼球が付き、バネで押してある円筒型の部品です。外径に雄ネジがあるため、クリックストップのテンション調整もこのネジでプランジャを前後に動かすことにより簡単に出来ます。
 クリックストップ機構は2本のリニアガイドのそばにそれぞれ設けてあります。穴付き金属板はプレスで作ってある大量生産の70円の部品ですが、金型の形状が正確に転写されているため、同じ金型から作られた金属板の穴は高精度で同じ間隔となります。従って、どのクリック位置でトップリングを止めても光軸は高精度で再現されます。スライド方向の間隔さえ正確に出れば、あとの精度はリニアガイドで押えられます。クリックストップだけでもトップリングは保持できますが、重いアクセサリの場合は不安なため、リニアガイドの近くに固定クランプも設けました。
 接眼部は高橋製MT130用ラックピニオン方式のものです。2インチ接眼レンズには対応していないため、ドロチューブの内側を旋盤で2インチ径に加工してもらいました。高橋製の接眼部は大変丈夫なため、2インチ双眼装置のモーメントにもなんとか耐えています。接眼部の繰り出し量は23mmで、クリックストップの間隔の15mmより十分の大きいため、スライド範囲の全域で微動することができます。
 トップリング内側に見えるフィルタはO。フィルタで、接眼部のそばのレバーを回転させることにより、光路に挿脱できるようにしてあります。スライド方式やターレット方式も考えたのですが、最初に作った時にコンパクト化を優先させたため、トップリングの内径に余裕が無く、フィルタを抜いた時には光路遮蔽が無い現在の方式に落ち着きました。挿入時の位置決めは駒に当てるだけなので、挿脱スピードはスライド方式やターレット方式よりも速いです。使うフィルタが増えた時には反対側にもう一つ追加できるスペースがあります。
3.トップリングと主鏡ボックスの接続
 改造前はステンレスパイプ4本でトップリングと主鏡ボックスを接続していました。ステンレスパイプ2本を筋交のアルミ角パイプで連結していたため、部品点数がわずか2点で、パイプ通し金物に差し込んで横からネジで締め付ければ組立完了でした。8本トラス式のドブソニアンよりも組立が簡単であり、曇りから急に天気が回復した時など、機材を片付けていても、すぐに組み立てる気が起こるため、重宝していました。
 しかし、2インチ双眼装置を使うようになり、しかもスライド機構がリニアガイドとなって重量が増加したため、さすがにトラス部の強度をアップさせる必要が生じました。
トラス上部外側 トラス下部内側
トラス上部内側
 トラスはオーソドックスな8本式で、上部の金具でパイプ2本を連結してあります。連結部は片側の1本のみ回転して広がるようにしており、2本とも回転するものと比べ、トップリングとの結合位置の再現性が高くなります。トップリングと主鏡ボックスそれぞれの固定ネジの奥には直径φ2.5mmの平行ピンを埋めこんであり、これがトラス金物のU字穴に嵌まるため、光軸再現性はネジ穴のガタの影響を受けず良好です。トラス金物の固定ネジ穴は組み立て容易化のため、すべて切り欠きにしてあるので、ネジを外すことなく締め付けることができます。組み立てが簡単なのは良いのですが、ネジが緩むとトップリングが脱落する可能性があることが欠点です。しかし、4ヶ所が同じに緩む可能性は小さいため、きちんと締めていれば問題ありません。トラスの部品点数は4点となり、従来の倍になりましたが、トラス棒が短くなり扱いやすくなったため、思ったほど組みたて時間は増えませんでした。
4. 2インチ双眼装置
 2インチ双眼装置は西岡氏設計製作のものを購入しました。西岡氏のものはミラー1枚以外、すべてプリズムを使っているため、プリズムの屈折率の分だけ双眼装置で消費する光路長を短くできます。従って、F4.5のニュートン式反射望遠鏡(ドブソニアン)で、45mm角のビームスプリッターでも2インチスリーブを使うことができます。
 
 2インチ双眼装置のニュートン式反射望遠鏡への取りつけは、45cm以上の望遠鏡では双眼装置のみ使う前提で、2インチスリーブを無くして双眼装置への入射角度を稼き、専用焦点調整機構を用いて取りつけられていることが多いようです。45cm以上ならば十分な光量があり、西岡氏の45cmを見せていただいても専用でOKだなと感じましたが、私の望遠鏡は33cmであり、観望対象により双眼と単眼の両方で使いたくなります。また、単眼で使うのならば、2インチスリーブでインタフェースを取るほうが、他のアクセサリを使うことを考えても何かと便利です。そこで、プリズムが入っていて消費光路長が短いこと生かして、オーソドックスな接眼部で2インチ双眼装置を普通のアクセサリのように使うことにこだわりました。

 単眼に最適化した、短い筒外焦点距離の状態で、光路長を大きく消費する2インチ双眼装置を使うには、@拡大率のなるべく低いバローレンズを入れて光路長を小さくする、Aリレー系により中間結像を作り焦点位置を外側にずらす、などの方法が考えられます。しかし、できれば余計なレンズは入れたくないことと、バローレンズやリレーレンズを設計して、像が崩れないようにきちんとレンズ保持する金物を自作することが面倒なため、単純に筒外焦点距離を増やすことにしました。但し、単眼で使用するときには筒外焦点距離を小さくしたいことと、望遠鏡のバランスが崩れないようにするためにトップリング可変方式を採用しました。

 西岡氏の2インチ双眼装置がプリズムを使っており光路長が短いと言っても、2インチスリーブでインタフェースを取り、通常の2インチドロチューブを使うとなると、さすがに筒外焦点距離が長くなります。視野の中心は光量100%、周辺部で50%の減光を許容しても、必要な斜鏡単径は96mmとなり、口径333mmに対する遮蔽は標準を超えます。斜鏡を小さくするため、単眼と双眼で焦点調整機構ご
と交換する方式も検討しましたが、交換する部分が大きく重くなると、固定方法も大げさになり、観望時の交換が面倒になるので止めました。
 巨大な斜鏡を考えると、改めて2インチ双眼装置を普通に2インチスリーブで使うことはかなり無理があることだと感じましたが、とりあえずやってみることにしました。

 他の望遠鏡に使うつもりで格安で手に入れた部品に短径100mmの斜鏡があり、NOVA社製1/10λの高精度品でした。これをCoulter社製の標準品斜鏡(短径80mm)と交換しました。中心遮蔽が大きい事による瞳のブラックアウトが心配でしたが、有効最低倍率では昼間は瞳に大きな影が目立ちますが、夜間なら問題ありませんでした。また、大きな中心遮蔽による星像の肥大化もほとんど問題無く、逆に以前の
Coulter製よりも星像は良くなりました。これは斜鏡の面精度が上がったことによるためで、中心遮蔽をうんぬんする以前にやはり面精度が重要です。
 さすがに高倍率での惑星像はコントラストが落ちていましたが、この望遠鏡に口径相応の分解能は期待していないため、星雲星団用としては問題ありません。

 2インチ双眼装置で使うアイピースはユニトロンワイドスキャン32mm(瞳径7mm)とナグラータイプ「22mm(瞳径5mm)です。どちらも超広視界で低倍率のため、宇宙船の窓から星雲星団を見たような気持ちになります。単眼とは全く別世界です。
 屈折双眼望遠鏡と比べますと、像のコントラストやシャープさは劣りますが、33cm+双眼装置でも周辺減光を無視すれば23cm双眼望遠鏡と同じ光量となるため、散光星雲や銀河は良く見えます。45cmに比べ、33cmなら有効最低倍率も47倍と低いため、より屈折双眼望遠鏡に近い運用が可能です。もちろん、大型の散開星団は屈折双眼望遠鏡の方がはるかに美しいです。
 
 2インチ双眼装置の内部は、金属面は写真用黒色艶消し塗料と植毛紙で、プリズムの砂ずり面は墨塗りでなるべく迷光が出ないようにしましたが、光路に平行平面がたくさん入っているため、ゴーストの発生を完全に防ぐことはできません。しかし、ゴーストが出ても、大なり小なり望遠鏡の改造が必要でも、それを補って余りある素晴らしい世界が2インチ双眼装置にはあります。

                                             以上     

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