第10章 ゾラー 双眼鏡
ゾラー(solar)という名の双眼鏡のわずかの記述が日本光学工業の社史(40年史)にあるのですが写真もなく私にとっては謎の双眼鏡でした。友人のN氏から古い科学雑誌の科学知識、昭和4(1929)年7月号に掲載された記事のなかにこの双眼鏡の仕様が記載されているのを教えてもらいました。
以前入手したNo130とだけ表記のある古めかしい42口径の双眼鏡の寸法、重量がほぼ一致するのでそれではないかと考えていたのですが、その後英国の方から同形の双眼鏡の問い合わせをいただき、その双眼鏡の写真にはまさしく「SOLAR」と初期の日本光学の商標である「JOICO」の表記があったのでこの双眼鏡がゾラーだとわかりました。
日本光学には大正10(1921)年に8名のドイツ人技術者が招聘され当時まだ立ち遅れていた光学機械の設計、製造技術を指導したとの記述が社史にあります。当時ツァイス社からはハインリッヒ・エルフレが特許を取得した広視界接眼レンズ採用の双眼鏡8x30DELTRINTEMが1920年に発売され日本でも広視界双眼鏡の開発が望まれたと思われます。招聘されたドイツ人技術者はゲルツ(Goerz)社の関係者であり、当時のドイツではゲルツ社はツァイス社と並ぶ総合光学メーカーでした。ゾラーの接眼レンズの構成は対物レンズ側から1-2-2枚構成(分解できなかった部分は推測)です。この構成は大正11年に設計されたOrion双眼鏡とも同じで、その後の大型双眼鏡に用いられた接眼レンズの構成にも同じものがあります。ゾラー双眼鏡の仕様は6x42、実視界10°です。
大正12(1923)年には見掛視界50度のノバー双眼鏡が設計されており同じ6x42でもこの機種より500gも軽くなっています。重いこの機種は不評だったのかもしれません。関東大震災(大正12年9月)の影響も考えられますが、その後広視界型として製品が継続されなかったのは残念です。
ゾラー(Solar) 6x42双眼鏡
接眼レンズ構成(推定)
眼側の貼り合せレンズは金枠にかしめてあり分解できませんでした。
分解清掃を行い接眼レンズの構成を推定しました。視野絞り径はφ29.6mmでこの値から対物レンズの焦点距離は170mm(F/4)になります。ポロ1型プリズムは大型のもので幅が31mmありました。現在の双眼鏡と見比べてみると反射防止コートが施されておらず暗く感じます。アイレリーフは12mm程、中心像は鋭く周辺像の劣化も緩やかです。
写真はSimon Tomlinson氏からのご厚意によります。
日本光学製品表(1929)科学知識昭和4年7月号から。この表にはゾラー8x56や7x50の記載もあります。詳細寸法重量が記載されています。
C.P.Goerz Marine-Nachtglass 8x56 、1918年に発表された広視界双眼鏡。接眼レンズの構成はsolarと同じ対物レンズ側から1-2-2枚構成。写真はSimon Tomlinson氏からのご厚意によります。
無断転載禁止

No reproduction or republication without written permission.

Copyright(C)2015 Binodesigns All rights reserved.

戻る