第2章 平行移動式眼幅調整機構
・ 9x 双眼鏡 ドイツGoerz社製 1899年頃

今は古い双眼鏡に関する本や記事、またインターネットの情報も増えましたが、古い双眼鏡に興味を持ち始めた頃には、情報も少なくGoerz社製のこの双眼鏡をのみの市で見つけた時には、珍しい眼幅調整方法に感動しました。対物レンズの有効径は20mm、見掛け視界は約40度です。2個のプリズムは鏡筒の両端部に配置されていて対物レンズの焦点距離は現代の双眼鏡に比べるとかなり長めに作られているようです。口径比が大きいこともあると思いますが像質はシャープです。

ツアイス社が初めて発売したプリズム式双眼鏡の眼幅調整は中心軸回りに鏡筒を回転させる方式でしたが、この双眼鏡には眼幅の調整方法としては全く異なる平行スライド式が採用されています。焦点調整用のつまみと眼幅調整用のつまみは直交して配置されています。スライド式の利点としては眼幅を変えても光軸の移動は同一平面内なので平行度が保たれ易い点だと思います。平行移動はラックピニオン歯車機構で行われています。しかしGoerz社でも1904年には、軍用双眼鏡に関してはこの方式は廃止されたと文献にあるので、耐久性や堅牢性に問題があったのかもしれません。

平行移動式眼幅調整機構を用いた双眼鏡はその後、特にドイツの大型双眼鏡に復活しています。

・正立レンズ式双眼鏡  英国Dollond 社製 

眼幅調整方式はGoerzの双眼鏡と同じ方式です。文献によれば1880年頃に英国やフランスで作られていた同様の双眼鏡が記載されているので平行移動式眼幅調整機構の起原はプリズム式双眼鏡よりも古そうです。全体の作りは美しく丁寧で、その時代の双眼鏡作りに傾けられた情熱が感じられます。対物レンズの有効径は34mm、倍率は12倍 程度、見掛け視界は約30度です。

参考文献:H.T. Seeger , Feldstecher 1989

Fred Watson , Binoculars opera glasses and field glasses 1995

                                   続く

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