第4章 広視界双眼鏡
双眼鏡の性能として視野の広さは重要な要素であり、日本では見掛け視界65度以上のものが広視界双眼鏡と呼ばれています。実視界も含めて視野を広くするためには視野周辺にも光量を十分通す必要からプリズムを大きくする必要があり、またアイレリーフを広げるためには接眼レンズの大型化が必要です。このため鏡体の大型化と製造コスト高にもつながりますが、アイレリーフが十分にある広視界の双眼鏡の視野はとても気持ち良いです。

・ 空十双 日本光学工業(ニコン)製 1943年頃

レーダーの登場が遅れていた頃の軍事用双眼鏡では、適切な倍率の視野の中に目標をとらえることができるか、見逃すかはとても重要であったはずです。日本の古い双眼鏡の中では、見掛け視界70度、さらに口径70mm、倍率10倍という空十双の仕様は、現代の双眼鏡と比べても抜きん出ています。この双眼鏡は昭和17年に航空機搭載用として開発されたもので小型化には苦心したものだろうと想像されます。さらに小型化することが要求されプリズムの代わりにミラーを使用した空十双2型が試作されましたが量産にいたらず終戦になりました。接眼レンズ部には、かみ合わせ式の視度目盛り回転防止機構が付いているのも独特です。第二次大戦中のドイツや、米国の双眼鏡には反射防止コート付きのものが、多くありますが日本ではまだ試験段階であったため空十双にはコートが施されていないのが残念です。

写真には空十双の大きさを1970年代に生産されたニコンの10x70mm 1型(見掛け視界65度)と比較するために2台を並べました。視野が広いにもかかわらず空十双は、より小型軽量です(重量は約2200gで10x70mm 1型は2500g)。対物レンズは錫泊を挟んだ分離型で像は歪曲も少なく素直な印象です。手元にあるのは、光学系に曇りがある品物なので分解清掃後に(できれば反射防止コートを施してみたいものです)また報告したいと思います。

左:空十双(10x70)      右:10x70 1型
・7x50広視界双眼鏡  米国Bausch & Lomb 社製 1944年頃

米国海軍で用いられたBausch & Lomb 社製の広視界双眼鏡です。外形は太く短く独特ですが、それ程重く感じないのは不思議です(重量はゴム顔当てなしで1650g)。口径50mm、倍率7倍、見掛け視界70度で単層反射防止コートが施されています。米国の広視界双眼鏡としてはSard社の6x42(72度)もありますが、像の印象としては、6x42よりこの7x50の方が歪曲収差が少ない感じです。アイレリーフも20mm程度あり、とても開放感のある像です。額と目の両側面を覆うゴム顔当てが付いていましたがうっとうしく、取り外してしまいました。

参考文献:日本光学工業 40年史   1960

                        続く

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